◆コンピューター適応型テストの導入が進む イギリスの最新お受験事情

                                          ボッティング大田朋子

 

 日本でも受験シーズンが始まっていますね。イギリスの教育制度は公立校と私立校、そして地域によっても違ってくるので、小学校・中学受験の時期に関して「この時期が受験シーズン」というのは一概に言えないのですが、私立の小学校に通う多くの子どもたちにとっては小学6年生の秋から冬が中学受験のシーズン、イングランド南東部で私立校に通う小6の我が子も今中学受験の真っ最中です。

今回はイギリスの私立校の入試で興味深いところや私立校試験の選抜テストとして使われているコンピューター適応型テストについて、特徴を踏まえて紹介したいと思います。

 

・受験は入学時の3年前からスタート

イギリスの私立校(インディペンデントスクール)では子どもが13歳から14歳になるYear9に中学と高校を兼ねた「シニアスクール」に通い始めます。面白いのはシニアスクールの入学試験は子どもが10歳から11歳になるイヤー6に行われること。

 

実際に入学する3年前に入試が行われるんです!

 

子どもの3年後を見据えて次の学校を決めるのは親にとっても学校選びが難しいという問題もあるのですが、そこはさておき、入試プロセスは、まず小6の11月にコンピューター適応型テストであるプレテスト(Pre-Test)を受け、そこで志望校が設けているボーダーラインの数字を取れたら、年が明けた1月か2月に学校ごとに実施される第2次試験に進み、3月に合否発表という流れです。第2次試験では学校独自の試験(英語と算数)と面接、そしてスポーツや演劇、音楽などのアクティビティー活動があります。アカデミックな学力だけではなくスポーツや音楽といった総合的な視点から評価されます。

 

イヤー6で将来通う学校が決まるのでプレップスクール(小学校)を卒業するイヤー8までは学力維持・向上はもちろん、音楽やスポーツ、アート、演劇といった多様な分野を磨いたり、ボラン.ティア活動に精を出します。そしてイヤー8でアカデミックスカラーシップやスカラーシップを申請するという流れです。

 

・選抜試験はオンラインの適正テスト

さて、子どもが6年生の時に受けるプレテストは「The ISEB(Independent Schools Examination Board) Common Pre-Tests」と呼ばれるオンラインのコンピューター適応型テストが使われています。これは親である私も今まで経験したことがないタイプの試験で「最近の試験はすごいなあ」と感心することが多々でした。コンピューター適応型テストは試験の最新版と言われていますが、従来の試験でありがちだった不公平や不合理が生まれにくいので、今後こういった試験形式が増えていくだろうなあと思いました。

 

・受験者毎に最適化された問題が出題される

テストはオンラインなのでコンピューター上で実施されるのですが、紙の試験がデジタル化されただけではなくて、受験生の答えの正否に応じてその都度受験生のレベルに最適な試験問題が選ばれて出題されるんです。 受験者の答えによって次の問題が決まる、受験者がそれぞれ違う問題を解くなんてすごくないですか? 

イギリスの小学6年生というと10歳から11歳の子どもに当たるのですが、受験の当日に11歳1ケ月の子どももいれば10歳4か月の子どももいます。アダプティブテストの第一問目は子どもの年齢を月単位にして、その年齢に応じた問題が選出されます。受験日の子どもの年齢が「〇歳△ケ月」と設定されて出題レベルが設定されるので、早まれだっからとか、試験する時期が遅かったから得だとか損だといった不公平さが生まれません。

 

  1. (画像;アダプティブ試験の一例)

 ・アダプティブ試験の受験科目は?

イギリスの小6が受けるアダプティブ試験の科目は、算数、国語、バーバル・リーズニング(Verbal reasoning)そしてノンバーバル・リーズニング(Non- Verbal reasoning)の4科目。バーバル・リーズニングというのは「バーバル」すなわち言葉に関係する知的テストのような問題で言葉の組み立てから推論して答えていくタイプの問題が出題されます。ノンバーバルは「非言語的」という意味で、テストでは図形や空間を把握していくタイプの問題が出ます。

・受験者のレベルに最適な問題が出題されるメリット

問題が固定されたテストだと、ある受験者には難し過ぎるけれど、他の受験者には簡単すぎるという状態がどうしても出てきます。「ふるいにかける」だけであればそれで良いのですが、受験者のレベルに応じた試験問題が出題されるアダプティブ試験では受験者のレベルに応じた試験問題が算出されるので、受験者の総合的な能力をより正確に測定することができるメリットがあります。受験という限られた時間のなかで受験者一人ひとりの得意、不得意を広範囲にわたってより正確に測定することができるなんてすごいですよねえ。

 

・正解すればするほど難しくなる

コンピューター適応型テストが斬新なのは、正解する度に少しずつ出題問題の難易度が上がっていき、間違ったら少しレベルを下げた問題が出て、そこでまた間違ったらまた少しレベルを下げた問題が出されること。我が子のアダプティブ試験対策のサポートをしながら、適応型テストの特徴を理解した対策が必要だなあと実感しました。

 

例えば、一律タイプの試験だと試験問題が難しく感じたら自分の実力がまだ足りていないと判断してしまいがちですが、アダプティブ試験の場合は、正解すればするほど問題の難度が上がっていくので、問題を難しいと感じるということはかなり高いレベルの問題に挑戦しているということ。これって知っていないと落ち込みますよね。

 

学校でコンピューター適応型テストに関して説明会があった時も、「子どもが“難しい”と言ってきたら高得点が取れていると思って間違いない、問題が難しいと言えばグッドのサインよ!」と言われました。問題を難しいと感じるということは、かなり高いレベルの問題に挑戦しているということなんです。

 

反対に問題を解いて「よくできた!簡単だった!」と感じた場合は、答え間違いが続いて問題設定が簡単な方に流れた可能性が高いので結果はよくないことも……。「問題を解いていて難しいと感じた方が高得点の可能性が高い」という捉え方は従来のペーパーテストではありませんでした。

 

・「やり直し」ができない

また、アダプティブテストでは自分が提出した答えの正否を元に次の質問が選出される性質上、一度回答した答えを「直す」ことができません。紙の試験では、問題を一通りやり終わった後に難しかった問題を見直したり、ケアレスミスがあったら修正することができますが、アダプティブ試験では「戻る」ことが不可能です。つまり、一回ごとの答えにケアレスミスがないことが非常に重要です。「一度提出した回答は戻せない」ことを念頭において問題を解いていく必要があります。

 

・スピードより正確さ

最初の方に出される問題がその後のテストのレベルを設定するのに特に重要だと言われているので、始めの数問はとにかくスピードよりも正確さを重視すること。早く問題を解きたいタイプの人には、始めにスローダウンさせることが大切です。我が子にも「始めの10問は2回確認してからクリックボタンを押すように!」と口をすっぱくして言いました。

 

・限界なきテスト

コンピューターでの適応型テストの性質上、答えが「満点」というのは存在しません。できればできるほどさらに難しい問題が投げかけられるからです。でも最難関問題に臨むレベルまでいけば、最大値の評価がされます。

 

わたしは上の子が受験する時に「イギリスのシニアスクール入試で使われるアダプティブテストは知能テストなので事前に勉強をして点数がよくなる類のテストではない」という意見を耳にして、わざわざ対策をしなくてもいいかなあと思っていました。二人の子どもがアダプティブ試験を受けたうえで思うことは「コンピューター適応型テストは実力を見ぬく」というか、小手先のテクニックで大幅な向上が見込める類のテストではなさそうです。ただ普通に小学生をしているだけでは馴染のないタイプの試験だけに何度か模擬試験をすることで「コツ」を掴むことが大事かなあと。「始めの問題は特に慎重に回答する」とか、「難しいと思ったらいい感じ」といったことを知っているだけでも試験を優位に進めそうです。

 

子どもさんが、またはご自身がコンピューター適応型テストを受ける機会があれば参考になれば幸いです。

 

受験生のみなさんもサポートする親御さんも、春までもう少し。受験生が万全な状態で当日に臨んで実力を発揮し、桜吹雪の春を迎えますように!

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/