◆第38回「家族ってなんだろう」

 北米でマルチリンガルの子育て、仕事、海外生活と日々奮闘中の筆者が感じた日本と海外の違いや気づきを綴るコラム。

第38回は家族ってなんだろうの話です。

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 今年の夏は、念願が叶って海の見える場所へ行くことができた。


2世帯が共に行動する1週間のロードトリップ。コロナ禍になってから、いや、子が生まれてから初めてかもしれない。これまでもちょこちょこと、一泊二日、二泊三日などの短い期間で旅行はしていたけども、これほどの期間はそれこそ十数年ぶりの親も一緒の旅。

旅路はほぼ全日、晴天!で広大な海をのんびりと眺めて満喫……

と言いたいところだけれども、実際には子がチョロチョロと動き回るのでそれをフォローしながら、必死にのんびりの時間確保をし、鮮やかな緑が美しい山々の隆起を眺めながら、子の「ゲームしてもいい?」という何度目かの質問に聞こえないフリを決め込み…

という、子連れあるあるの旅路。でも久しぶりの The旅行が本当にうれしかった。

わが家族はお互い遠慮なく主張をし、楽しいときは大いに盛り上がるという ”にぎやかな家族” なので、このメンバーが集まれば、旅は当然、笑いあり、小競り合いありの道のりとなる。

今回の旅行で一点だけこれまでと違ったのは、わたしには別の ”自分の家族” があって、以前の旅行のときの、両親の子どもという立ち位置ではなくなったこと。

例えば以前なら、どんな旅程でも親の都合に合わせて食事や移動をしていたけれども、今回は小さなわが子も一緒なので、どうしてもお互いのスケジュール感覚が合わずに、小さな衝突があったし、ことあるごとに、その何かに対する考え方の違いを感じた日々だった。

そして初めて思った。家族ってなんなんだろうな、と。

わたしが ”自分の家族” を持つ前は、生活のことや食に関すること、日々の時間割りなど、いわゆる日常についての アレコレの「あたりまえ」 は、両親と同じものだった。だから必要以上にモヤることもなく、その場その場で解決し納得ができていた。

でも、わたしが別の家族の人(夫)と結婚をし、子どもが生まれ、”自分の家族”を作ったことで、生まれてからの何十年間ずっとあたりまえだと思ってきた価値観は、自分でも気づかないうちに少しづつ変化していて。知らぬ間に、新しい ”わたしの家族の価値観” というものができていたの
だ。

それはどちらが良くて、どちらが悪い、ということではなくて、本当にシンプルに異なる、それぞれ、ということなんだけれど。

その違いを、旅行先で長い時間を共に過ごすことで、まざまざと目にしてしまったことへのショック…とまではいかないけれども、「ああ、両親とわたしは今は別の家族なのかもしれない」と気づいてしまった、うっすらとした寂しさというか、そんなことを発見した旅だったのだ。

だから、家族ってなんだろうなと思った。わたしが大好きだった家族は、気づけば少し気を遣う間柄になっていて、今居心地が良いと思うのは別メンバーの ”自分の家族” で。そして両親もまた、彼らの子どもたち(わたし)が巣立ったあとに、新しい夫婦だけの家族の形を作っているわけで。

子どもの頃は、自分にとっての家族は一つだけだと思っていたけれど、実は自分の家族っていくつもあって、しかもアメーバのようにグニャグニャと、そのときそのときの形を作って変化しているものなんだなあと感じたのだ。人生のうつろい、のようなものを一つ知ってしまった夏の旅であった。

 

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SASAKI

海外移住をした編集者・ライター。取材・インタビュー記事が得意。英仏話者。人々の生き方や働き方、子育て、教育に興味あり。現地企業では新たな挑戦としてマーケティング・カウンセラーも経験し、いつか海外と日本の架け橋となるようなサポートもしてみたいと考えている。