◆イギリス人にとっての広島のイメージや、インバウンドへの関心度合い

                                          ボッティング大田朋子 

 

 

中国地方の観光スポットとして外せない広島は原爆ドームや平和記念資料館、平和記念公園といった歴史的に重要な意味を持つ観光地だけではなく、世界遺産である宮島・嚴島神社や広島城、街を走る路面電車、そして牡蠣を始めとした海の幸から広島風お好み焼きなど、楽しみどころが満載だ。

 

インバウンドの伸びが顕著だが、広島にも年間100万人を超える外国人観光客が訪れるそうで、日本に(何度も)行ったことがある、または日本に行きたいというイギリス人に「広島」のことを質問してみました。

 

イギリスに住んでいると、2度あった世界大戦のなかでもどちらかというと第1次世界大戦に目を向けられることが多いので(イギリスでは第一次世界大戦が終戦した11月11日が戦没者追悼記念日で、11月11日の11時に毎年2分間の黙とうを捧げるのが慣例になっている)、「Hiroshima」のことは名前は知っているだろうがどこまで知っているのかと疑問だったのですが、改めてイギリス人と「Hiroshima」についての認識を聞いてみると、人類史上で初めて原子爆弾が投下された街であり、原爆投下から復興している街をこの目で見たいと言う人が多いことに驚かされました。

 

話を聞けば聞くほど、イギリス人が広島という街に東京や京都とは違った関心を持っていることが伺えます。今回は、イギリス人にとっての広島のイメージや、インバウンドへの関心度合いをまとめました。

 

 ・広島観光のパターン

イギリス人の友人で広島を訪れたことがある友達たちは、京都や大阪といった関西の観光の後に京都から新幹線で足を伸ばして広島を訪れるというパターンが多かったです。私が話を聞いた人たちは全員1泊2日で広島を滞在し、一日目は原爆ドームや原爆資料館を訪れて、2日目は厳島神社へ向かいました。

 

・広島への関心度合い

広島を訪れた感想を聞くと、「原爆ドームを見て衝撃を受けることは想定内だったが、その周辺で目にした数々の原爆被爆遺物に衝撃を受けた」という声が。原爆を真上から受けたお地蔵さま「被爆地蔵尊」の土台に残る影の部分や、原爆資料館で見た爆弾の熱線で石に人影が残った「人影の石」が衝撃的だったと。「原爆が投下されてから80年近く経つが、それでもなおそれらを目の前にして、原爆の凄まじさを肌で感じた」と。「原爆の子の像で平和の鐘を鳴らしたときに胸が詰まり涙が出た」、「無数の千羽鶴を見て涙が出た」というコメントも。

 

広島を滞在したイギリス人たちが「世界中の人が広島を訪れるべきだし、世界中の指導者が広島を訪れるべきだ」と言ったのが印象的でした。そして、「時間が許せばあと1、2日くらい滞在したかった」とも。

 広島を訪れる前に、ニューヨークタイムズ紙が第二次世界大戦でのあまり知られていない出来事をまとめた「私たちが知っている第二次世界大戦の向こう側」という記事を読んだという友達は、その記事の中で取り上げられていた原爆投下の日の朝に気象予報機を操縦し原爆投下にゴーサインを出したアメリカ人パイロット、クロード・イーザリー(当時26歳)のことを語ってくれました。原爆投下任務に当たった軍人は90 人いたけれど、戦後「自らの行為を悔いている」と公言したのはその若いパイロット、クロード・イーザリー氏だけだった、そして彼は生涯その苦悩に苦しめられたという記事が頭から離れないと言っていました。(本文後に参考記事リンク)クロード・イーザリー氏とユダヤ人哲学者ギュンター・アンダースがと交わした苦悩の書簡が「ヒロシマわが罪と罰-原爆パイロットの苦悩の手紙」として出版されているようで、それも読んでから訪れたそうです。

 

また家族で広島を訪れたというイギリス人の友人のなかには、ちょうど広島に行った翌年に息子がイギリスの高校の修学旅行でアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に行き、広島とアウシュヴィッツを見たことで、戦争の悲惨さを自分事として考えるようになったと言っていました。「世界中の人が広島を訪れるべきだ」、「人生で必ず行くべき所だ」と言っていました。

 

日本には2度訪問したが広島はまだ訪れていないというイギリス人は、「HiroshimaとNagasakiのことは第二次世界大戦を語る上で外せない。次の日本行きでは広島にも行きたい」と言っていました。イギリス人の広島への関心がかなり高いことに驚き、わたしも少し胸が熱くなりました。

 

一方で、日本にはまだ行ったことがない友人たち数人に広島のことをどれだけ知っているか聞いたら、「原爆を投下したのはアメリカだった?」「パールハーバーがあって原爆が投下されたんだっけ?」という歴史の認識があいまいな人もいて、広島への認識や関心は人によって程度差が大きいという一面も垣間見えました。

 

・お好み焼きソースが人気!

話をしたイギリス人の友人たちが広島に観光に行ったときは、大阪を訪問した後だったので、関西風お好み焼きと広島風お好み焼きを食べ比べをしたといった話も聞き、お好み焼きのソースが美味しかったと言う人もかなり多かったです。お好みソースを買って帰ったなんて声も。広島のお薦めグルメといえば牡蠣ですが、わたしが質問したイギリス人の半分は「牡蠣は苦手」ということでした。

 

・宮島やジブリの聖地

広島市内での観光を終えると、フェリーに乗って“神が宿る島”といわれる宮島に向かうコースが典型的のよう。宮島では、弥山にのぼって宮島のパノラマを楽しみ、焼き牡蠣を食べて、神秘的な厳島神社が沖合に浮かぶ朱色の大鳥居を見るのがよくある流れのようです。ちなみに、弥山に行くなら登山ルートも宮島ロープウェーもどちらもお薦めです。友人の一人で福山市を訪れた人がいましたが、理由を聞くと福島市の「鞆の浦」は宮崎駿監督がスタジオジブリ映画「崖の上のポニョ」の構想を練った場所なんだそうで、映画の舞台のモデルとなったんだとか! 

 

そういえば、今年はイギリスでもディズニープラスで配信されているドラマ「将軍 SHOGUN」が大ヒットしているし、日本を訪れるリピーターの外国人観光客が歴史にフォーカスした旅をする日もそう遠くはなさそうです。

 

【参考サイト】

・ニューヨークタイムズ紙が第二次世界大戦の出来事であまり知られていないストーリーをまとめた「私たちが知っている第二次世界大戦の向こう側」シリーズ

・Beyond the World War II We Know

https://www.nytimes.com/spotlight/beyond-wwii

 

・The Hiroshima Pilot Who Became a Symbol of Antinuclear Protest(反核抗議のシンボルとなった広島のパイロット)

https://www.nytimes.com/2020/08/06/magazine/hiroshima-claude-eatherly-antinuclear.html

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/