◆7月イギリス発コラム コロナ禍での国境を超える移動(イギリスから日本入国)

 

                                                                                                                                                                                                             ボッティング大田 朋子

 

イギリス発コラムと称していながら少し路線がずれるが、今月のコラムでは筆者が7月半ばに日本に一時帰国し約1週間政府が指定するホテルで強制隔離を経験したことを踏まえて、コロナ禍での国境を超える移動体験をシェアしたいと思う。現在(2021年7月)の水際対策では、イギリスから日本に入国した場合は、日本到着日の翌日から6日間指定されたホテルで強制隔離を行い、その後も入国から14日間の間は登録した待機場所で自主隔離することが義務付けられている。

 

・搭乗前のコロナ検査

まずはイギリスを出発する72時間前以降に新型コロナウィルス検査を受ける必要がある。これは日本政府が求める基準を満たす検査証明書を発行する検査機関で行う必要があるが、これが言うほど簡単ではない。日本政府が求める基準を満たす検査機関がイギリス国内に数か所にしかないことと、検査結果が判明する時間を考慮すると、出発前日かその前日に検査を受けるだけのために遠出をする必要があるからだ。ロンドン南東部の都市に住む筆者は約1時間半車を走らせ、出発前日にそれでも自宅から一番近い検査機関場所であるロンドンシティー空港に出向き出国前のコロナ検査を行った。空港近くに前泊して検査を終えた友人もいる。コロナ禍の海外渡航には時間もお金も通常時以上にかかると聞いていたが、それを体現するスタートだった。

 

・日本到着、空港でコロナ検査

関西国際空港に到着したら、まずイギリス出発前に受けたコロナ検査陰性証明を提示したり、入国に必要な書類を確認されたり、厚生労働省が日本入国者に義務付けているアプリのインストールがされているかといった確認が順番に行われた。空港では入国者の2~3倍の数のスタッフの数で対応しており、「コロナが生み出す雇用」の一端を見た思いだった。その後、唾液を出してするPCR検査を終え、待機場所で検査結果が出るのを待つ。検査結果は40~50分でわかると提示されていたが、実際1時間弱で結果がわかり、自分の番号が呼ばれたらようやく通常の入国審査の流れに加わることができる。入国審査後は、預かり荷物を受け取り、スタッフの人の指示に従って、空港から所定のホテルに行くバスに乗るという流れだった。

関空到着から隔離先ホテルのバスに乗るまで約4時間、ようやく外の空気を吸った。

 

・6日間のホテル強制隔離

イギリスから日本に到着した場合、日本到着日はゼロ日と換算し、到着翌日から数えて6日間政府が指定するホテルで隔離が義務付けられている。関空着が朝だった筆者は実質7日間、ホテル日航関西空港で隔離をしなければならなかった。

 

・ホテル隔離で必要だったもの

ホテル隔離のために用意したものは、食品いうとインスタントスープ、シリアル、シリアルバー、日持ちするパン類、ナッツ類、ドライフルーツ、日持ちする牛乳、お菓子類、各種ハーブティーと蜂蜜など。子どもたち(8歳と11歳)が約1週間もホテルの一室にこもる環境で少しでも心理負担が和らぐようにとそれぞれ本を5冊ずつ、事前にお気に入りの本各種をダウンロードしておいた電子書籍、携帯用オセロやチェス、風船、糊やハサミ、シール、色鉛筆、くれよん、ルームバンドセット、トランプ、お絵かき用の紙、おりがみなどを用意。持ち込んで良かったものは本、白い紙、牛乳、風船、ルービックキューブ、オセロ。風船は通常のものに加えて、光るタイプのものや水風船などを持ち込んだが、風船のおかげで室内バレーができるなどいい気分転換になった。

 

ホテル隔離中に出されるお弁当はとても美味しくてボリュームがあるので、食事に関して特別な要望があるのでなければ食品類の持ち込みはあまり必要ないと思ったが、それでも約1週間毎食お弁当というのもしんどくなってくるので、カップヌードルやスープといった軽くできる食事があれば、胃がしんどくなってくる4,5日目に助かると思う。食事にはデザートもついていたのでお菓子の持ち込みもそこまで必要なかったと後から思ったが、足りないよりはよかったかも、とも思う。

 

反対に、持っていけばよかったと思ったのは、インスタントコーヒー。お茶や水はたくさん用意してくださっていたので困らなかったが、意外やコーヒーがなかったのでコーヒー好きはコーヒーが必携だ。

 

 

筆者の場合は大阪に住む両親が何度かホテルに差し入れを持ってきてくれたので、そのときに日本語の本やコーヒー、カップうどんなどを持ってきてもらった。隔離中は家族が差し入れに来てくれても会うことはできないが、それでも窓越しに両親の姿を確認することができてお互い手を振りあった。アマゾンなどでネットショッピングもできるし、利用できる時間帯の制限はあるがデリバリーも利用できる。

 

・午後の時間をどう乗り切るか

ホテル隔離の期間は、8歳と11歳の常に体を動かしていたい年齢の子供たちが運動不足と気持ちの維持が一番心配だった。朝からラジオ体操や室内の有酸素運動などをして体を動かすように努めたが、それでも3日目を過ぎると思い切り歩けないというのが堪えてきた。そんな脚が思いっきり動かせないまま毎日が終わる悶々とした日々が数日続いた後、目をつぶってその場ランニングをすることで少し体が楽になった。1分、2分とタイマーをかけて目をつぶってその場でランニングをしたのだが、目をつぶることで瞑想効果があるのか、苦なく何度もランニングができた。ずっと同じホテルの壁を見て過ごしていたので、目を閉じるだけで現実逃避ができたのかもしれない。その場でする運動に使ったり軽く室内バレーボールなどができるので、柔らかいボールを持ち込めばよかったと後で思った、今後ホテル隔離をする人の参考までに。

 

ホテルのお風呂も活用した。子供たちは多い時には一日に4回水風呂に入っていたが、時間をつぶすのにお風呂にはずいぶん助けられた。ちなみに、ホテル隔離の間は部屋を一歩も出られない。部屋の前に椅子が置かれていて、その椅子の上に食事が置かれる。食事をとるときやごみを出す時だけドアを開けることができ、それが唯一の外の空気とのつながりだ。

 

昼食後の数時間が一番しんどかった。ランチの後から夕食までの時間が過ぎるのが遅いのだ。結局夕方にはイギリスやスペインに住む子供たちの友達とビデオチャットをつなげ、夕方の2時間は子ども同士オンラインで話をしたり、一緒にゲームをすることで生活に変化をつけるようにした。わたしはその間本を読む時間がとれた。精神的なしんどさがピークに達していた4日目には、偶然イギリスで子どもが通っている日本語補習校の授業がオンラインになったとわかり、急遽時差を超えて授業に参加したが、これがよい気分転換になった。

 

午前中は3人で遊んだり適度な運動を一緒にし、午後にスクリーンタイムを入れ、夕方は子どもの友達とオンラインでつなげてあげることでルーティーンを立て、わたしも子どもたちも乗り切った。閉じ込められる時間は数日続くと非常にしんどいので、ビデオコールで友達とつながったり、オンラインのレッスンをうまく取り入れるのが良いと思った。

 

・入国後3日目と6日目のコロナテスト

入国後3日目と6日目に再びコロナ検査が行われ、陰性だとホテル隔離が終わる。「検査結果は陰性でした」と電話をもらって部屋を出て、ホテルのロビーで迎えに来てくれていた父と久しぶりに再会できたときは、喜びとともに「やっと終わった」と肩の荷が下りた。子供たちも久しぶりに会うおじいちゃんに走り寄り、抱き着いていた。

 

・14日間自主隔離は続く

その後の残り7日間は、登録した場所で自主隔離となる。その間毎日厚生労働省から健康状態を報告(熱が37.5度以上ないか、咳はないかといった質問に答えていき送信する)、一日数回「現在地報告」をする義務がある。また、毎日1~3回入国者健康確認センターからビデオコールが入り、顔と背景を映すように求められる。ビデオコールはオペレーターの時とAIのときがあり、私の場合は大人の私の居場所確認にはAIが使われても、その数分後にオペレーターから「子どもの顔を見せてくだい」と連絡が入ることが多かった。ホテル隔離の後に毎日監視するような連絡が入ることは正直良い気はしないし、これ以上続くと本気で精神のバランスが崩れると思った。「こちらはすでにワクチンを接種した後なうえに、この短期間に4回ものコロナ検査をしているし、イギリスから自宅でできる検査キットも持ってきているのに」といった歯がゆい思いもある。

 

これを執筆している7月末、筆者はちょうど入国から14日間の自主隔離を終えようとしている。やっと毎日厚生労働省かかってくるビデオコールがなくなると思うと、それだけでほっとする。

 

・次はイギリスに戻る前、日本出国前の検査

日本を出国するときには、再びコロナ検査が待っている。一人3万円という高額で頭が痛いが、家族と会えた喜びには代えられないと思うしかない。あえて幸いなのは、日本からイギリスに行く際には、ワクチン接種を完全に摂取して14日間経過している場合には10日間の自己隔離をする必要がなくなったことだ。イギリスに入国して2日目の検査が必要なだけである。

 

 

 

今回つくづく、早くコロナが収拾してほしいと思った。離れて暮らす家族と安心して行き来できる日が一日も早く戻ってきてほしい。

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/