◆コロナ禍ライフスタイルの変化で注目集めるトレーラーハウス@イギリス

                                          

                                              ボッティング大田 朋子

 

1月には一時期、一日の新型コロナ感染者数が20万人を超えていたイギリス。感染者数だけを見ると凍り付いてしまいそうになるが、現実は「人と会う前はラテラルフローテストをして陰性であることを確認してから」といったニューノーマルも浸透しつつ、それなりにウィズコロナ生活が普通に営まれている。

 

・働き方の変化が促す、理想環境への住み替え

パンデミックが始まって以来、程度の差はあれ私たちの生活の随所で変化があった。コロナ禍のイギリス社会全体を見ると、「働き方の変化」が劇的なものとして挙げられる。

 

2020年の3月以来多くのオフィスワーカーが在宅勤務になり通勤がなくなった(または通勤の頻度が減った)。在宅勤務奨励から約2年経とうとしている昨今、「在宅勤務の推奨を終了する(イングランドでは1月27日、スコットランドでは1月31日から)」と発表されたばかりだが、今後しばらくは在宅と通勤を組み合わせたハイブリッドワークが続くと思われる。

 

こうした働き方の変化を受けて、2020年は理想の環境への住み替えを実現した人が多かった。引っ越し先として人気だったのはカントリーサイド(郊外)や海辺エリア、庭と広いスペースを求めて郊外に出る傾向が顕著だった。というわけで景色がキレイなカントリーサイドや海に近い地域の不動産価格は驚くほど高騰し、最近になってようやく不動産価格が少し落ち着きを見せ始めているといった状況だ。

 

今後は、高騰しすぎた不動産を購入できない層やミニマム住宅を好む人たち、現状のなかで空間をスマートに使い人たちの動きに注目が集まりそうだ。

 

・ウィズコロナ期間に人気沸騰、トレーラーハウス

パンデミック以前、不動産価格が高いロンドンなどの高学歴層の間で居住型の船「ボートハウス」を購入・改造して住むのがトレンディーだった時期があった。また、すでに子育てが終わった夫婦やリタイヤ世代の間では「住宅のダウンサイジング」意識が高まり、平屋のバンガロータイプの家が注目された時期もあったし、「タイニーハウス」のようなコンパクトな住居を求める動きも一部で見られていた。この数年は、アメリカなどではすでにブームの「トレーラーハウス」に関心が集まっている。

 

「トレーラーハウス」というのは、見た目はコンパクトでかっこよいタイニーハウスのようだがよく見ると下に車両がついている。車でけん引できる「移動できる高機能住宅」でコロナ禍の今注目が集まっている。造りや素材は通常の家と同じ、屋根は耐久性も普通の家と変らない。もちろん水道や電気も通っている。「トレーラーハウスは建築物と定義されないから固定資産がかからない」といった噂話を耳にしたことがある人もいると思う。

 

・イギリスのトレーラーハウス事情

イギリスでトレーラーハウスは「モービルホーム」と呼ばれ、今まではどちらかというと、低価格で住居を持てる方法として選ばれてきた感がある。電気やガスがあらかじめ設定してあるトレーラーハウス用に設けられた「モービルホームパーク」と呼ばれる集合住宅地区が随所にあり、自然や海、都会との距離といった理想の環境にあるモービルホームパークを探すことから始め、そこでトレーラーハウスのモデルを選ぶという流れが主流だった。

 

・アクティブシニアのホーム

一方で、この10年ほどで関心が高まっているのが、比較的裕福なシニアを対象にした裕福なタイプの「モービルホームパーク」だ。リッチなシニア世代を対象にしたトレーラーハウスは、ダウンサイジングを考える世代には適切な住居サイズで、モービルホームパークにいることでプライバシーは保てながらもゆるくつながったコミュニティーがすぐ側にある安心感が人気の理由の一つ。

 

アクティブシニアを対象とした「モービルホームパーク」は海沿いやゴルフ場に囲まれたエリアに建っていて、高齢者が理想の環境を求めた先にいきつくような条件を備えた地域に建てられている。ゴルフコンペや釣り、美観地区のウォーキング、ヨガといったアクティビティーが適度にオーガナイズされるので、人とのつながりを適度に持ちながら老後の人生を充実させたいと願う層にウケている。

 

そういった豪華なモービルホームパークの中にはイギリス人のソーシャルライフに欠かせないパブもあるし、孫が訪ねてきたときのためにアスレチックスペースも用意してある。

 

多くのシニア向けのモービルホームパークは55歳以上が対象だが、いよいよ高齢化社会が本格化してきたイギリスで、老後ライフを豊かにアクティブに実現する住宅スタイル方法としてトレーラーハウスの需要は今後さらに高まりそうだし、その形態も進化していきそうだ。

 

・コロナ禍だからこそのトレーラーハウスの需要

コロナ禍では、ステイホーム期間が長く続いたのでトレーラーハウスを家の庭に置いてエクステンションの部屋として活用したり、第二の家として使うといった動きが出てきた。ウィズコロナが続くイギリスで、「テレワークのための個室として使いたい」、「子どもが遊ぶプレイルームが欲しい」といったニーズに応えたのがトレーラーハウスだったのだ。

 

・自然保護地域の土地活用

加えて、イギリスでは自然保護の条例が驚くほど多くて家を建てるのに様々な制約が課されるケースが多いのだが、そういった建設の手続き(フィールド調査から建築に関するあらゆる許可取得など)が煩雑すぎて広大なフィールドを持て余しているランドオーナーにも、広大なフィールドの活用手段としてトレーラーハウスが注目し始めている。

 

特に景観が美しい場所に土地を持っているランドオーナーほど、この15年ほどの間環境保護の流れを受けて、所有する土地が特別自然美観地域などの保護区域に指定されてしまい自分の土地が活用できなくなっているケースも多い。その解決策となりえるトレーラーハウスに期待がかかる。

さまざまな用途で活用できるトレーラーハウス、これからが楽しみだ。


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/