◆英国ポストコロナ、需要増に追いつかない人材不足で航空業界 混乱中

ここにきて日本では再び感染者数が急速に増加、第7波に入ったなどと連日報道されている。

 

規模やこれまでの経過は随分違うが再び感染者が増え始めている傾向はイギリスでも同じで、7月初めに発表されたデータによれば、過去7日間で感染が確認された人が13万9272人と前週に比べて26.5%増加、入院者数も1万1028人にのぼり前週から32.9%と増加傾向にある。筆者の周りを見ても感染者再増加の傾向は顕著で、雰囲気的にすでにコロナが過去のものとなりつつあった6月半ばに友人から「コロナになった……」と連絡があり、7月初めには別の友人が「コロナになった」と言ってきたことで、「忘れかけていたコロナがまだ周囲をウロウロしている」とまた不安になったものだ。

 

ただ、コロナ感染者が再び増加傾向にある状況に対してのメディアや一般市民の受け方はかなり違って、良いか悪いかは別として、イギリスではコロナはすでに過去のものとして先に進んでいる感が強い。毎日のニュースで必ずその日の感染者数が報道される日本とは違って、イギリスでは過去2年にわたってニュースのトップを占めてきたコロナ関係の話題は現在ほとんど見受けられず、積極的に検索しないとコロナの感染者数を耳にしない。

 

・航空業界 追いつかない人材

アフターコロナのイギリスで、新型コロナが落とした影が別の問題を引き起こしている目立った例が航空業界だ。コロナ渦で大打撃を受けて離職せざるを得なかった、航空業界で働く人たちが、コロナが収束しても航空業界の仕事に戻ってこないのだ。

 

それによって現在圧倒的な人員不足が起こっている。今年の春のイースター休暇や5月のハーフターム(学校の中休み)の時期には「コロナで海外に行けなかった2年分を取り戻そう」と海外旅行に向かう人が後を絶たず、旅行業界事態の需要は回復したにも関わらずフライトの急遽キャンセルや遅延が相次ぎ、回復した航空需要に人材確保が追い付いていない問題点や混乱が目立った。

 

空港で働くスタッフが足りないから空港には長蛇の列ができるし、預け荷物を運ぶ人材が足りないから荷物が運び込まれず飛行機は遅れるし、経験豊富な入国審査員が不足しているから入国審査には長い列ができている。また急遽人材を確保できたとしても、経験がない人たちが多く「数は足りていても業務は進まず」といった場面も見受けられる。人材不足や経験不足の人材による航空業界の混乱は夏休み中も続くと予想されていて、イギリスにいる人たちの旅行の在り方に影を落としている。

 

「海外旅行には行きたいけれど突然キャンセルになるリスクを考慮すると飛行機乗るのは避けたい」「空港での長蛇の列はうんざりする」といった具合に。その為、行先次第ではフェリーに乗ったり、運転して欧州各国を訪れるなど「飛ばない」交通手段を選ぶことでリスクヘッジをしている人も多い。

 

というわけでイギリスではコロナによる海外渡航の規制はなくなったとはいえ、コロナによって引き起こされた航空業界の人材不足が引き起こす空の旅の混乱はしばらく続くと予想され、アフターコロナ問題の代表となっている。

 

・イギリス入国はコロナ禍以前と同じ

海外渡航に関係して述べると、日本国籍を持つ人ならイギリスと日本間の渡航はかなりスムーズになっている。イギリスでは入国の際に新型コロナウイルス対策として課せられていた水際措置が3月18日からはすべて全て撤廃されていて、今はワクチン未接種の人たちに対しても出発前検査及び入国後検査は撤廃されているため「コロナ前」の状態に戻っている。

 

日本に入る際には72時間前の出国前検査が求められるが、後述するように日本入国の際に「ファウストトラック」が導入されているため事前に必要書類を提出して審査を受けておけば日本入国もかなりスムーズだ。

 

・アフターコロナ、差し当たっての問題はロシア飛行禁止

パンデミックが終わりようやくコロナが落ち着いてきた感があるイギリスに住む日本人としての視点から話をすると、「イギリスは水際対策を完全に撤廃したし、日本到着時のホテル隔離や自己隔離もなくなったから、やっとイギリスから日本に里帰りしやすくなる!」と喜んだのもつかの間、ロシアのウクライナ武力侵略によって現在はロシア上空を飛行できなくなってしまった。

 

そのため昨今は航空便が限られてしまい、「コロナによって飛べない」から「航空便減少でキャンセルや変更が相次いでいる、予定が組めないから飛びにくい」と渡航の不安要因が変わってきている。日欧間のフライトはロシア上空の飛行を避けるために北回りか南回りに迂回して飛行するしかなく飛行時間が通常時より4-5時間ほど長くなっているし、燃料の価格高もあって航空運賃もびっくりするほど高額、コロナとはまた別の問題に頭を抱えている。

ヨーロッパから見た日本は今も遠いままだ。

 

・ファストトラック

現在イギリスから日本に到着した場合、ワクチン接種の有無に関わらず帰国後の検査や隔離義務はなくなっている。海外から日本に入国する際に「MySOS」と呼ばれる Web又はアプリ上であらかじめ検疫手続きの一部を済ませておくことができる「ファストトラック」が導入されているので、空港での手続きは非常に迅速。MYSOSを通して個人誓約書、ワクチン接種証明書等の書類、出国前72時間以内の検査証明書といった入国前に必要書類をアップロードして事前審査を受けておけるからだ。

 

7月頭にイギリスから日本に夏休み帰国をした筆者もファストトラックのシステムのおかげで入国手続きがかなり迅速で助かった。

 

・空港での検疫手続きの事前登録MySOSの具体例

MySOSの流れを具体例で説明すると、筆者の場合はイギリスを出発する2週間ほど前までに個人誓約書やワクチン接種の証明書のアップロードなど事前登録できることをしておいた。PCR検査の陰性証明書だけはイギリス出発72時間以内に取得しないといけないため出発直前までできないが、その間は「登録情報が途中」ということでアプリ上の画面が「事前審査が進行中」を意味する黄色画面になっていた。

 

出発72時間前のPCR検査の陰性証明書を取得して全ての提出を終えたら、登録内容を検疫手続確認センターが確認する流れで、登録内容の審査が完了したらアプリの画面が青色または緑色に変わる。

 

筆者の場合はPCR検査の陰性証明書をアップロードしてから10分以内(ワクチン接種済みの私は10分以内、ワクチン未接種の12歳、9歳の子供たちは30分以内)で「事前登録済み」と表示がされ、アプリの画面が青色に変わった。

 

名前の通りファストトラックで助かった。もちろん検査証明書を事前に登録していない場合は空港で未提出の書類を提示することもできるが、ロンドンを出発するときも、東京に到着した時も、まず尋ねられたのはMySOSの提示。準備をしておくとかなり時間短縮になる。というわけで、この夏海外に出て日本に入国する機会がある人達は是非利用したい。

 

ちなみに7月8日からは「MySOS Web」というウェブが導入され、パソコンでもファストトラックの利用が可能となってますます便利になっている。

 

・現在のコロナの症状

7月半ばに英国の新型コロナ検査で陽性だった17,500人のデータによると、現在のコロナの最大の症状は「喉の痛み」と報告されている。続いて、頭痛、鼻づまり、咳が挙げられ、これまでコロナ感染の可能性が高い症状として挙げられていた発熱や嗅覚または味覚の喪失はあまり見られないと報告されている。

 

すでに行動制限が撤廃されマスクが義務でなくなってから1年が経つイギリスでこれからコロナがどうなっていくのか、これ以上の被害や混乱が起きないことを祈りながら行方を見守りたい。

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/