◆デジタルを資産として所有できる時代の到来「NFT」

 

最近ニュースなどでやたらと「NFT」という言葉を耳にする。「SNSの投稿が数億円で落札された」、「芸能人やお絵かきがNFTで売れた」、「全豪オープンが初めてテニスNFTコレクションを発行した」、「名前を知っている企業がNFT販売を仲介する事業を始めた」などNFTに関する話題に事欠かない。

 

とはいえ、「NFTって一体なんなのだろう?実はまだよくわかっていない」という人も少なくないのではないだろうか。少し前の筆者もその一人で、最近になってようやくNFTのことが分かり始めたばかり。しかし理解すればするほどNFTがもたらす可能性の大きさを実感し、あらゆる業界のゲームチェインジャーになると実感している。NFTを理解すればするほど今後のビジネスにも有利になるということも。

今回は「NFTとは何か」という大枠を説明したい。

 

・デジタル上に資産を保有できる技術

NFTは「ノン・ファンジブル・トークン(Non Fungible Token)」の略。とはいえこの言葉自体が非常に分かりにくいが、一つずつひも解いていくと、ファンジブルは「代替可能な、交換可能」、トークンは「しるし、証拠、記号」を意味する。つまり、NFTは「交換することができない証拠」と直訳でき、「非代替性トークン」と訳される。

 

と言われてもあまりピンとこないので「デジタル上でモノを所有できる技術がNFT」と捉えて、身近なことを例に考えてみたい。

 

例えば、現在毎日スマホからアクセスして見たり聞いたりしているデジタルデータ。今はまだ無料で自由に複製することができて許可なくシェアしてもコストがかからないことが多い。無限にシェアできるから、そのデジタルデータに資産価値があるとは考えない。しかし、「デジタルデータの複製ができなくなる」、「コピーをする度に課金される」と想定するとどうだろう?

 

今まで無料で複製できて許可なく共有できていたデジタルデータの複製が禁止されると、そのデジタルデータに「価値」が生まれる。デジタルデータの複製を禁止する技術が発達したことで、デジタルな所有物が「資産」になるのだ。コピーとの違いを区別しにくかったデジタルの世界で所有者が明確になるのは革命的で、それを可能にした技術が「NFT」というわけだ。NFTにより今まで無限に複製や共有ができたデジタルデータに価値と希少性を生んだ。

 

・デジタルデータに認識番号をつける

そしてその「デジタルデータのコピーを禁止にする技術」が「ブロックチェーン」と呼ばれるものだ。「ブロックチェーン」の技術によってデジタルにハンコを押し所有者を証明できるようになった。「デジタルデータにハンコを押す」と表現するとわかりにくいが、商品の裏側やパッケージなどに記載されているシリアルナンバーをデジタル上のデータにも入れることが可能になったと考えるとイメージしやすい。

 

つまりブロックチェーンの技術によって確立されたデジタル資産がNFTなのだ。これにより、画像やイラスト、動画、音楽、音、ツイートなどアップロードできる全てのデジタルコンテンツに価値を持たせ販売・転売できるようになったのだ。

 

NFTの応用範囲は多数あるが、NFTが大会社だけのビジネスチャンスではなく私たち個人にとっても身近な話だということを感じてもらうために「NFTをアートに活用した例」を取り上げたいと思う。

 

・NFTアート

「NFTアート」は動画や画像、ツイートなどデジタルデータで扱われるものにNFT技術を紐付けたものをさす。デジタル写真やコンピュータグラフィックスなどデジタルアートは今までも盛んだったが、データで扱われるデジタルアートは複製を無限に作成できるという便利さが仇となって従来の芸術作品と比べると価値の低いものと見なされてきた。アートの世界では、オリジナルであることや、それしかないという唯一性が作品の価値を支えるからだ。

 

しかしNFTの登場によってデジタルアートにも「唯一性」を持たせることができるようになり、デジタルアートに対する価値観が一気に変わった。NFTとデジタルアートを紐づけることによってそのデジタル作品がオリジナルである「証明書」をつけることができ、唯一無二のものだと証明できるようになったからだ。アートとNFTを紐付けた「NFTアート」はNFT市場の中でも最も注目されている分野の一つで、世界中のクリエーターが次々とNFTアート市場に参入している。

 

・NFTアート代表作

NFTアートで最も名の知られた作品といえば、アメリカ出身のデジタルアーティストであるBEEPLE(ビープル)氏がNFTアートとして出品した「Everydays – The First 5000 Days(毎日 − 最初の5000日)」と題された作品。2007年5月1日から毎日作品を投稿するというプロジェクト「Everyday」を遂行していたBEEPLE(ビープル)氏が、その期間中に描かれた作品をコラージュしてひとつのNFTアートとして集約した作品だ。作品名にも表れているようにBEEPLE(ビープル)氏が5,000日以上に渡って切り取ってきた「毎日」の作品をひとつの芸術として集約したデジタル作品で、NFTアート作品のなかでも最高額である約75億円で落札された。

 

またカナダのソフトウェアエンジニア2人からなるチームLarva Labsによって生み出されたドット絵アート「CryptoPunks(クリプトパンク)」は、NFTアートの存在を強烈に世界中に知らしめた存在として知られる。「CryptoPunks(クリプトパンク)」は、1個あたり24×24ピクセルで描かれたキャラクターのドット絵で、女性パンク、ゾンビパンク、類人猿パンク、エイリアンパンクといった世界でたった一つしか存在しないキャラクターをアルゴリズムによって生み出したという作成過程からして興味深い。最古のNFTアートの一つというだけでも「CryptoPunks(クリプトパンク)」の価値は高いが、アルゴリズムで自動生成されたそれぞれのキャラクターが一点ものである点や、世界で1万個だけしか存在しないという限定性がウケて、一つのキャラクターが最高額10億円越えする作品も存在する人気NFTコレクションとなっている。

 

・誰でも作れるNFTアート

NFTアートが高額で取引されたというニュースを聞いても自分には関係ないと思う人もいるかもしれないが、仮想通貨を準備しておけば誰でもNFTアートの購入者や販売者になれる点に目を向ければ、もう少し調べてみようかなあと興味を持つ人もいるのではないだろうか。NFTアートを出品するときにかかる手数料を払うために仮想通貨(イーサリアム)を買ったり、仮想通貨を入れるお財布をウオレットを準備するといったことは必要だが、NFT作品を作って、NFTマーケットプレイスとよばれるNFT化された作品・コンテンツを売り買いする取引所に登録し出品すれば、今日からでも誰でもNFTで販売することができるからだ。

 

今まで趣味でイラストを描いたり写真を撮っていた人にとってはそれをNFT化すれば自分のアートを世界に向けて紹介できる販売機会になるし、既にデジタルアートを楽しんでいる人にとっては販売先の簡単な開拓や拡大が期待できる。

既存の概念を覆し、予想できない可能性を次々と実現しているNFTに今後も注目していきたい。


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/