ボッティング大田朋子
イギリスでは冬が異常に長いので春がやってきたときの喜びは半端じゃない。日が長くなって春らしくなってきた時期には「春がやっと来てくれた、ありがとう~」なんて気持ちが沸くのも、暗くて長い冬の後だからこそ。そして春の到来の後は一気に忙しくなる。日本ではお正月から3月の間は行事が多く時間があっという間に過ぎる感覚を「1月行く、2月逃げる、3月去る」と表すが、同じような時間感覚がイギリスでは4月から6月におとずれる。
屋外アクティビティーやイベント、外遊び、友達と出かけるといった冬の間不活発だったものが一気に活動を始めるので、春になるといきなり慌ただしくなるのだ。あらゆるソーシャルイベントが再開してお誘いが増えまくり、行事に追われている間に気がつけば夏休みがくるという感じ。ただでさえ時間の流れが早い春から夏にかけての季節だが、今年の春はいつも以上にあっという間だった。その理由の一つに、5月に3連休が3回もあったことが挙げられると思う。
・圧倒的に少ないイギリスの祝日数
ここでイギリスの祝日について少し説明したい。イギリスでは「祝日」をバンクホリデーと呼び、祝日数は年間8~11日。イギリスというとイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを差し、祝日も4つの地域で統一されている祝日と、それぞれの地域によって違う祝日があるのだが、どこの地域でも祝日の総数はたいして変わらず、総じて一年に8~11日しかない。イングランド(イングランドとウェールズは祝祭日が同じ)の祝祭日は年8日。「海外は祝日が少ない」と耳にしたことがあるかもしれないが、イギリスも例外ではないのだ。
そしてイングランドでは通年5月に祝日(バンクホリデー)が2回あるのだが、今年はチャールズ国王の戴冠式が5月6日に執り行われたので、翌月曜日の5月8日が臨時バンクホリデーになった。
とうわけで今年は年間の祝日数が9日に。そして、一年に9回しかないバンクホリデーが今年の5月には3回もあったのだから(1ケ月に3連休が3回)今年の5月はみんなテンションが高かった。そして連休が続いたことで、今年の5月はさらにあっという間に過ぎていった感が強かった。
・祝日数が少ない代わりにある他の休み
年間祝日数の話に戻すと、祝日が年間16日ある日本の基準からみると「祝日が1年に8、9回しかないなんて!」と驚くかもしれない。とはいえイギリスでは祝日こそ日本より数が少ないが、日本にはない休みが他にもあるのだ。
会社で働いている人でいうと、13週間継続勤務を行った労働者には有給休暇を付与されることになっているのだが、「有休取得可能日数は、(週の勤務日数)×5.6日」(1年間最大28日まで)、つまりイギリスの有給は一年で25~28日ほどあり、有給休暇取得率は84%。筆者の周りの友人たちを見ている実感としてはイギリスでの有給休暇取得率は実際はもっと高い気もする。「有給休暇は権利」と考えて1年ですべての有休をしっかり消化している人が大半だし、「休みがあるから仕事ががんばれる」という考えが根付いている。つまり祝日数は日本の方が多いが、有休はイギリスの方が多いしその有休をしっかりととっているのだ。
・有休と病欠は別扱い
そして、有休とは別に自分や家族が病気や体調不良になった際に利用できる休暇「シック・リーブ(Sick leave、病気休暇)」という有休制度がある。日本との大きな違いは、25日~28日ある有給休暇とは別に「病気休暇」を取得することができること。勤続年数が長くなると「病気休暇」も増えるのだが、おおむね年15日が「病気休暇」として割り当てられる。つまり、「子どもが学校を休んだときのために」とか「親の病院の付き添い」のために有休を残しておかなければならないといったことがない。病欠は別扱いなので体調が悪い時に25~28日ある有休を使う必要がないのだ。
・日本にはないイギリスの親の悩み
有休と病欠が別扱いというのはポイントが高いが、かといってイギリスの有休がそのままバケーションに当てられるかというとそういうわけではなくイギリスにはイギリスなりの悩みがあるのだ。その一つとしてイギリスの学校は休みが多いこと。保護者たちは学校の休みが来る度に頭を悩ませている。
アメリカと同じくイギリスの学校も9月が新学年の始まり。1年を三つの学期(ターム)に分け、その学期の間に日本と同じように「冬休み(クリスマス休暇)、春休み(イースター休暇)、夏休み」といった長期休暇がある。けれど日本のように1学期を通して授業を行うなんてことはない。なんと、学期(ターム)の間に「ハーフターム(Half Term)」という1週間の「中休み」があるのだ。
ハーフタームは地域や学校によって日程や期間が少しずつ違うのだが、著者の子どもたちの学校では10月のハーフタームは2週間、2月と5月のハーフタームは1週間ずつ学校が休みになる。
イギリスで子育てをしている親の頭のなかは、だいたいこんな感じだ。
長い夏休みが終わって9月に新学年が始まる。数週間経つと、次は10月半ばから始まるハーフタームの予定を立てなければいけない。1~2週間の10月のハーフタームが終わって11月に学校が再開すると、次は翌月にある冬休みの予定を立てなければいけない!そして 1月に新学期が始めると次は2月のハーフタームの予定を、ハーフタームが終わって学校が再開したら次は3月の春休みの予定を……。
上記のような感じで、ひっきりなしにある学校のお休みに合わせて予定を立てる能力と段取りが必要になる。有休をいつどこに使うかには常に頭を悩ませるし、親の腕の見せ所でもある。
ハーフターム中には、スポーツや音楽、アートなどのアクティビティーをする「ホリデークラブ」があるので、それらに子どもを預けることもあるし(有料)、祖父母や兄弟といった家族がいる人は祖父母のところに子どもたちだけ預けたり、子どもの友達の保護者と交代で子どもを預かり合ったりする。ホリデークラブに入れても送り迎えが必要なので、こちらも子どもの友達の親と協力し合って交代で送り迎えをするなどして、なんとか乗り切る感じだ。
ハーフタームに加えて、年に数日は「インセットデー」というのもある。「インセットデー」というのは先生の研修やチームミーティングのために設定される日で平日に行われる。先生は出勤するが、子どもたちはお休み。つまり、子どもを持つ親はハーフタームに加えてインセットデーといったイギリスならではの学校の休みに有休を使うといった調整が必要になるというわけだ。
・休みの取り方
子どもたちの休みの多さには驚くし、日本で勤務するケースと比べるとイギリスではいかに休みやすいか(または日本人がいかに働きすぎているか)という点が目につくが、イギリスに住んでいると「隣国のスペインやフランスでは夏休みがもっと長いんだよねえ」などと、近くにあるものとの比較で、「わたしたちはイギリスでこんなにも働いているんだ!」と錯覚してしまうときもある。
イギリスで子育てをしていると、「5~6週間ごとにある子どものお休みをどう過ごそうか」と、次から次へとやってくる学校の休みの予定を立てることに追われている間に一年が終わると感じるときがある。「休みが多すぎるから、休みの予定を立てるのに疲れる!」といった休みが起こすストレスで本末転倒になるときも。
ただ、忙しい21世紀に生きる私たちには「休める」というのは能力らしい。「休み方が上手」というのはとても大事なスキルで、上手に休むからこそ生産性が上がるのだと言われると、それならしっかり休める力をつけようか、なんて思うのだ。
たしかに長い人生で、年間有給休暇20日間が保証されていて、有休を100%消化する権利を実行するのは非常に大事なことだし、小まめに休むだけでなく、1週間から2週間とまとまったお休みを取るので「しっかりと休んだ!」という気になれるのは大きい。
休みの取り方や頻度、休み方にもお国柄が出ていて、知れば知るほど興味深い。
ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota
ライター&プロジェクトプロデューサー
アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。
現在イギリス・カンタベリー在住。
メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。
アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。
⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/